公善社のブログ

 「考える葬儀屋さん」のブログのおかげで、本書『葬儀業』(平凡社新書/2024年5月)の存在を知ることができました。考える葬儀屋さんの情報に対する感度と反応の速さには、いつも感服させられます。いつも有益な情報を提供していただき、感謝しています。

 本書の著者・玉川貴子さんは専修大学大学院で社会学を修め、現在は名古屋学院大学現代社会学部准教授としてご活躍です。著書として本格的な学術論文である『葬儀業界の戦後史』(青弓社/2018年3月)があり、本書『葬儀業』は、『戦後史』に収められたアカデミックな知見をベースに、新型コロナウイルス禍が葬儀にもたらした影響にも言及しつつ、葬儀業界の歴史と現状を親しみやすい言葉でまとめたものです。
 玉川さんは学生時代にフィールドワークの一環として葬儀社のスタッフとして働いた経験もお持ちであり、また全日本葬祭業協同組合(全葬連)とも深くお付き合いされている方です。葬儀の現場を知っている数少ない学者さんであり、本書においても私たち葬儀業者が首をかしげるような点はまったくと言っていいほどありませんでした。
 ただ、本書の記述は全葬連に偏っており、冠婚葬祭互助会やJAの情報が少ないという批判があるかもしれません。確かに、互助会とJAが施行する葬儀件数は全葬連加盟の葬儀社が施行する葬儀を凌駕するものであり、それについて語られていないことは片手落ちであると言えなくはありません。ただ、互助会およびJAには葬儀に純化された情報が蓄積されていない可能性があり、現実を捉えにくいという面はあると思います。互助会やJAを含めた葬儀業の全体像を構築することは、今後の玉川さんの課題でしょう。
 こうした点に注意しながら本書を読むと、全葬連を中心とした葬儀業界の歴史と現状を知ることができるわけですが、その内容をここで紹介しようとは思いません。興味のある方はぜひ本書を紐解いていただきたいと思います。今回、本書において注目されるのは、玉川さんによる「葬儀不要論」批判です。
 本書「はじめに」において玉川さんは、コロナ禍において誰にも見送られることなく火葬された感染者のその家族の無念に心振るわせ、葬儀という儀礼が持つ意味を読者に問いかけます。そして第4章の末尾において、彼女は葬儀の意味について以下のように明確に述べています。少し長くなりますが、本書のエッセンスであると思いますので、そのまま引用します。

 ただ、社葬のような大勢の人が参列する葬儀から親しい人だけで見送られる葬儀まで、その本質は社会(企業や国家、家族など)からの感謝やさまざまな感情・想いを形にして、お別れをする(ひょっとしたらまた来世で会えるかも、などの期待も含め)ことなのだとすれば、どんな葬儀の形式であってもよいのではないでしょうか。贅沢であろうが、簡素であろうが、見送る人たち、または社会が「ちゃんと誰かの死を見送ることができた」と思い、そこでの関係や社会的な紐帯が続く、と思えるような儀礼こそ、その本来の意義があるように思います。
  儀礼の要不要という極端な立場からの議論は、儀礼が生前からの社会的なつながりに基づいて行われることを無視していることによって生じていると思われます。つまり、こういった議論は、経済的な合理化や効率性重視の考え方をする社会なっていくと必ず起きやすいともいえます。儀礼は要不要というよりも、その時代の社会、経済状態に合わせて「改変可能なものだ」と考えれば、むしろ儀礼が持つ意味を最大限に生かせるのではないでしょうか。

 こうした見解は玉川さんの願望ではなく、現時点における葬儀に対する「良識」であると思います。もちろん数値から抽出されたものではありませんが、葬儀現場の内外において切実に感じとることができるものです。
 例えば葬儀現場内においては、葬儀に携わる者にこうした良識を捉える力がなければ、経済的合理性と故人ご遺族への配慮の間を右往左往する困難な仕事を遂行することなど到底できるはずがありません。また、『葬式は、要らない』の著者であり「ゼロ葬」の提唱者である宗教学者・島田裕巳氏が、自身の御母堂がお亡くなりなった際には適切なお見送りの時間と空間を設け、島田家の菩提寺に納骨したことにも、この良識の力が働いていたはずです。
 ところで、玉川さんは最終章において「if共済会と事前相談員資格制度」「静岡県湖西市新居町における葬祭協同組合の取り組み」「キリスト教プロテスタント教会の葬儀」をレポートしています。このように、葬儀をめぐる諸問題に対する様々な取り組みがある一方、現時点において葬儀業界の最大の課題として挙げられるべきは「人手不足」ではないでしょうか。葬儀業界への人材供給が今後も低調なままであるなら、迅速かつ良質のサービスが提供できない場面も出てきます。
 もちろん、葬儀業界の内部で改善しなければならないことは多々あります。今後の改善に精一杯取り組むという覚悟とともに言わせていただくなら、多くの方々に玉川さんが言うところの葬儀という儀礼の意味をご理解いただき、少しでも葬儀業に関心を持っていただければ幸いです。また、カスタマーハラスメント、常識外の要求、長時間労働等がなくなり、葬儀業界の労働環境が少しでも良くなるようご協力いただきたいと思います。

 以上、玉川貴子『葬儀業』を読んでの雑感でした。

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